不動産の相続税対策——
生前にやるべき5つの対策を比較
section 01
まず知る——不動産の相続税はいくらかかるのか
不動産を持つ方にとって、相続税がいくらかかるかは最も気になるテーマのひとつです。ただ、不動産の相続税は「時価」ではなく「相続税評価額」で計算されるため、自分の不動産にどの程度の税金がかかるかは、評価方法を知らなければ見当がつきません。
このページでは、不動産の相続税評価額の基本的な仕組みと、生前にできる5つの対策を比較します。どの対策にもメリットとリスクがあり、万能な方法は存在しません。物件の種類・ご家族の状況・資産全体のバランスによって最適解は異なります。
基礎控除の計算
3,000万円
固定額
600万円
× 法定相続人の数
基礎控除額
これ以下なら相続税ゼロ
例:配偶者+子供2人 → 3,000万 + 600万 × 3人 = 4,800万円
不動産の評価額は時価より低くなる(一般的な目安)
※ 実際の評価額は個別の物件により異なります
別荘・遊休不動産の注意点
- 保養目的の別荘には「小規模宅地等の特例」が適用されません
- 利用頻度が低い物件ほど劣化が早く進行します
- 固定資産税・管理費・温泉権利金などの維持費が毎年発生し続けます
「持っているだけ」の状態が長く続くほど、経済的な負担は積み上がります。生前のうちに方針を決めておくことで、ご家族への負担を軽減できます。
自分の不動産の相続税評価額を調べる方法
不動産の相続税評価額は、毎年届く「固定資産税の通知書(課税明細書)」から概算できます。
土地の評価方法は大きく2つあります。
路線価方式は、市街地の土地に使われる方法です。国税庁の路線価図で、土地に面する道路に記載された1㎡あたりの価格に面積を掛けて算出します。おおまかな目安として、固定資産税評価額の約1.14倍が相続税評価額に近くなります。
倍率方式は、路線価が設定されていない地域(別荘地に多い)で使われる方法です。固定資産税評価額に、国税庁が定める倍率(多くの場合1.1倍前後)を掛けて算出します。
ただし、これらの倍率はあくまで全国的な目安です。都市部や人気エリアでは実勢価格と路線価の乖離が大きく、逆に地方では路線価が実勢価格を上回るケースもあります。正確な評価には個別の補正計算が必要なため、概算として把握した上で、詳細は税理士にご確認ください。
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額がそのまま使われます(倍率1.0)。
通知書の見方で注意すべき点は、「評価額」と「課税標準額」は別の数字だということです。相続税の計算に使うのは「評価額」の欄です。「課税標準額」は住宅用地の特例(自宅の土地の税金が最大1/6になる制度)などで減額された後の数字なので、これを使うと過小評価になります。
section 02
不動産で相続税を下げる5つの方法——メリット・デメリットを比較
不動産を活用した相続税対策には、代表的なものが5つあります。それぞれにメリットとデメリットがあり、「これだけやれば安心」という万能策はありません。ご自身の状況に近い対策から確認してみてください。
5つの対策を3つの軸で比較
● 評価レベル | 圧縮効果は多いほど有利 | 初期コスト・デメリットは少ないほど有利
圧縮効果
多いほど有利
初期コスト
少ないほど有利
デメリット
少ないほど有利
こんな状況の方に
7年ルール
評価額が低い不動産がある
居住要件が厳格
自宅に同居している相続人がいる
5年ルール+判例リスク
手元に現金が多い
運営コスト
不動産を複数所有している
許認可・3年ルール
別荘や遊休不動産がある
評価額が低い不動産がある
自宅に同居している相続人がいる
手元に現金が多い
不動産を複数所有している
別荘や遊休不動産がある
※ 上記は一般的な傾向を示したものです。物件の種類・評価額・ご家族の状況によって最適な対策は異なります。
❶ 生前贈与
メリット
- 早い段階で財産を移転でき、相続時の課税対象から外せる
- 相続時精算課税制度(2,500万円まで非課税枠)を活用できる
リスク・注意点
- 2024年1月以降の贈与は、相続開始前7年以内のものが相続財産に持ち戻されます(以前は3年)。早めの対策が必要です
- 不動産の贈与には登録免許税(固定資産税評価額の2%)と不動産取得税が発生します。相続であればこれらの負担は大幅に軽減されるため、贈与の方がトータルコストが高くなるケースもあります
- 受贈者(もらう側)に納税資金が必要です
向かないケース
評価額が高い不動産は贈与税の負担が大きくなり、相続まで待った方が有利になることがあります。税理士に相続税と贈与税の比較試算を依頼することをお勧めします。
❷ 小規模宅地等の特例(自宅)
メリット
- 適用されれば評価額の80%が減額される(効果が非常に大きい)
- 初期コストがかからない
リスク・注意点
- 配偶者以外の相続人が適用を受けるには、被相続人と同居していたこと、または「家なき子特例」の要件を満たす必要があります
- 相続税の申告期限(10ヶ月)まで土地を保有し続ける必要があります
- 別荘や遊休不動産には適用されません(居住用の宅地のみが対象です)
向かないケース
相続人全員が別居しており、家なき子特例の要件も満たさない場合は適用が困難です。
❸ 賃貸不動産の購入
メリット
- 現金を不動産に組み替えることで、一般的に評価額が40〜60%程度に圧縮される
- 賃貸中であればさらに「貸家建付地」「借家権割合」の控除が適用される
- 小規模宅地等の特例(貸付事業用:200㎡・50%減額)との併用も可能
- アパート経営による相続税対策も同じ仕組みです。
リスク・注意点
- 2027年度税制改正で「5年ルール」の導入が見込まれています。相続開始前5年以内に取得した賃貸不動産は、小規模宅地等の特例(貸付事業用)の適用対象外となる方向で検討が進んでいます
- 最高裁判例(令和4年4月19日)で、相続直前の不動産購入による過度な節税が否認されたケースがあります
- 空室リスク・価格下落リスク・管理の手間が発生します
向かないケース
手元現金に余裕がない場合、借入で購入すると債務控除との相殺で圧縮効果が限定的になることがあります。
❹ 法人化(不動産管理法人の設立)
メリット
- 不動産の収益を法人に帰属させることで、個人の資産増加を抑制できる
- 家族を役員にして報酬を支払うことで、実質的な資産分散が可能
- 法人税率は所得が800万円以下であれば15%(中小法人の特例・2027年3月末まで)
リスク・注意点
- 法人設立費用(20〜30万円)と毎年の決算・税務申告費用(年15〜30万円程度)が発生します
- 個人から法人への不動産移転時に、譲渡所得税・登録免許税・不動産取得税が課税されます
- 法人の運営の事務負担が継続します
- 物件が1つだけの場合、法人の維持コストが圧縮効果を上回ることがあります
向かないケース
所有不動産が1件のみ、または年間の不動産所得が500万円以下の場合は、法人化のコストに見合わない可能性があります。
❺ 旅館業転換
メリット
- 「特定事業用宅地等の特例」が適用可能になります。対象面積400㎡、減額率80%で、貸付事業用(200㎡・50%)より広い面積を高い減額率で圧縮できます
- 通常の別荘では使えない小規模宅地等の特例が、事業用に転換することで適用可能になります
- 宿泊収益が維持費をカバーし、キャッシュフローが改善する可能性があります
- 2027年税制改正で賃貸不動産が影響を受ける中、旅館業は不動産貸付業に分類されないため、現行制度では対象外です
リスク・注意点
- 特定事業用宅地等の特例を適用するには、相続開始前3年以上の事業継続が必要です(3年ルール)
- 旅館業許可の取得には、用途地域・建築基準法・消防法・保健所の要件を満たす必要があります。全ての物件が許可を取得できるわけではありません
- リノベーション・許認可・設備を含めた初期費用(1,000万〜2,500万円程度)が必要です
- 宿泊事業には稼働率リスク・季節変動・運営の手間が伴います
- 立地・建物の状態・用途地域によっては、売却や他の対策の方が合理的な場合もあります
向かないケース
延床面積が小さい物件(目安として90㎡未満)は収益性が低くなりがちです。また、用途地域が対応していない地域では許可が取得できません。
section 03
小規模宅地等の特例——3つの区分と使い方
相続税対策で最も効果が大きい制度の1つが「小規模宅地等の特例」です。不動産の評価額を最大80%減額できますが、不動産の使い方によって適用される区分が異なります。
特定居住用宅地等
330㎡
80%減額
被相続人の自宅
貸付事業用宅地等
200㎡
50%減額
賃貸不動産
特定事業用宅地等
400㎡
80%減額
事業用不動産
「自宅」で使う場合(特定居住用宅地等)
- 配偶者はほぼ無条件で適用可能
- 同居している子供も適用対象
- 別居の子供は「家なき子特例」の要件を満たす必要あり
- 申告期限(10ヶ月)まで保有を継続することが条件
- 別荘や遊休不動産には適用されません
向いている方
自宅を所有しており、配偶者または同居の子供が相続する場合
「賃貸不動産」で使う場合(貸付事業用宅地等)
- アパートやマンションなど、賃貸経営をしている不動産が対象
- 減額率は50%、対象面積は200㎡(居住用より限定的)
- 2027年度税制改正で、相続開始前5年以内に取得した物件は対象外となる方向で検討が進んでいます
- 居住用(330㎡)との併用は面積調整が必要
向いている方
既にアパートやマンションを経営している方
「事業用不動産」で使う場合(特定事業用宅地等)
- 旅館業や飲食業など、事業で使用している土地が対象
- 減額率は80%、対象面積は400㎡(3区分の中で最大)
- 居住用(330㎡)との完全併用が可能で、合計730㎡に80%減額を適用できます
- 相続開始前3年以上の事業継続が要件です
- 現在は別荘として保有している物件でも、宿泊事業に転換すればこの区分が適用できる可能性があります
向いている方
事業用の不動産を所有している方、または別荘を宿泊事業に活用することを検討している方
Before
別荘のまま保有(特例の対象外)
- ×小規模宅地等の特例→適用不可
- ×建物の評価減→なし(自用家屋のまま)
- ×土地の追加控除→なし
- ×収益→ゼロ(維持費のみ発生)
After
事業用に転換した場合(特例の対象に)
- ○特定事業用宅地等の特例→400㎡・80%減額
- ○自宅との併用→最大730㎡に80%減額
- ○宿泊収益→維持費をカバー
- △初期費用→1,000万〜2,500万円
- △3年ルール→相続前3年以上の事業継続が必要
※ 宿泊事業への転換は全ての物件に適用できるわけではありません。用途地域・建物の状態・ご家族の意向によっては、売却や他の対策の方が合理的な場合もあります。
3年ルールの制約
特定事業用宅地等の特例を適用するには、被相続人が相続開始前3年以上にわたり、その土地で事業を継続していたことが要件です。つまり、相続が差し迫ってから慌てて旅館業を開始しても、特例は適用されません。効果を得るには、早い段階での判断と行動が必要です。
2027年税制改正との関係
令和8年度(2027年度)税制改正大綱では、「相続開始前5年以内に新たに貸付事業に供された不動産」について、貸付事業用宅地等の特例の適用が制限される方向で検討が進んでいます。
この改正は「不動産貸付業」に適用されるものであり、宿泊事業(旅館業)は不動産貸付業には分類されません。そのため、旅館業として運営している物件は、現行制度ではこの改正の影響を受けない見込みです。
ただし、税制は毎年改正される可能性があります。最新の情報は税理士にご確認ください。
事業用への転換が合わない場合
以下に該当する場合は、宿泊事業への転換以外の対策を検討された方がよい可能性があります。
- 3年以内に相続が発生する可能性が高い場合
- 物件が旅館業の許可が下りない用途地域にある場合
- 建物の老朽化が著しく、リノベーション費用が収益見込みに見合わない場合
- ご家族が宿泊事業に反対している場合
- 手元資金が不足しており、融資も困難な場合
こうした場合は、売却・生前贈与・法人化など、他の選択肢の方が合理的です。
section 04
生前にやるべき不動産の相続対策チェックリスト
section 05
親が認知症になったら、不動産はどうなるか
高齢の不動産オーナーにとって、認知症は相続対策の前に立ちはだかる大きなリスクです。
認知症になるとできなくなること
売却できない
不動産の売買契約には本人の意思能力が必要です
遺産分割協議ができない
認知症の相続人は参加能力がないと判断される場合があります
名義変更ができない
生前贈与や法人への移転手続きには本人の意思確認が必要です
建物の用途変更ができない
旅館業への転換など、活用方法を変える判断も困難になります
元気なうちにできる3つの備え
家族信託
信頼できる家族に不動産の管理・処分の権限を託す制度。費用は50〜100万円程度。
任意後見契約
将来の後見人をあらかじめ指名しておく契約。家族信託ほどの柔軟性はありません。
遺言書の作成
遺産分割協議を経ずに相続手続きを進められます。判断能力がある段階で作成を。
これらの制度は、いずれも「本人の判断能力があるうちに」手続きを完了する必要があります。
section 06
ご相談いただける内容とエリア
売却のご相談
相続した不動産の売却相談は、エリア・物件の種類を問わず全国対応しています。宅地建物取引士が売り主の立場で、物件に合った販売活動を進めます。
※ 物件の状態・立地によっては、仲介をお受けできない場合があります。その場合は「相続土地国庫帰属制度」(国への返還)など、他の選択肢をご案内します。
旅館業転換・収益化のご相談
旅館業許可の取得からリノベーション・運営管理まで、一棟貸し宿泊施設への転換を一気通貫でサポートします。
- 東京(港区・新宿区(一部エリア)・目黒区)
- 神奈川(箱根)
- 山梨(河口湖)
※ 上記以外のエリアでもご相談ください。延床面積70㎡以上の一棟貸し可能な物件が対象です。
売却が難しい物件をお持ちの方へ
立地や建物の状態により、一般的な売却が難しい不動産もあります。そのような場合でも、以下の選択肢をご案内できます。
相続土地国庫帰属制度
2023年4月施行。一定の要件を満たせば、相続した土地を国に返還できます。審査手数料14,000円+負担金(原則20万円)で申請可能です。建物がある場合は解体が必要です。
相続放棄
相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述。ただし不動産だけでなく全ての遺産を放棄する必要があります。
買取業者への売却
市場価格より低くなりますが、早期に現金化できます。買取価格は業者によって差が出るため、複数社への相見積もりをお勧めします。
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ご相談の流れ
STEP 1
相続税シミュレーターで概算を確認
固定資産税通知書の「評価額」を入力するだけで、相続税の概算と、不動産の活用による節税効果を確認できます。
無料・個人情報不要
STEP 2
オンライン面談で選択肢を整理
宅地建物取引士が、物件の状況とご家族の意向をお伺いし、5つの対策のうちどれが現実的かを整理します。
30分・無料
STEP 3
税理士と連携した出口設計
必要に応じて税理士をご紹介し、相続税の詳細計算と対策の実行を連携して進めます。
section 08
よくあるご質問
約1分・費用は一切かかりません
本ページの情報は2026年3月時点の税制に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務相談・税務判断を行うものではありません。具体的な相続税対策については、税理士にご相談ください。税制は毎年改正される可能性があります。