旅館の営業許可は引き継げる? ― 事業譲渡と株式譲渡・2023年改正の手続き【2026年版】
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旅館を売ったり譲ったりするとき、多くのオーナーがまず不安に感じるのが「営業許可は引き継げるのか、それともまた一から取り直しなのか」という点です。結論からいうと、会社ごと引き継ぐ「株式譲渡」なら許可はそのまま続き、事業だけを譲る「事業譲渡」も、2023年(令和5年)12月の法改正で、事前の承認申請によって引き継げるようになりました。
この記事は、宿の売買に通じた宅地建物取引士が、ハブ記事『旅館を売却するには?』の許可承継パートを、手続きの実務に踏み込んで深掘りするものです。法令・税務・許可の最終的な扱いは個別事情と自治体の運用によって異なる場合があります。具体的な案件は、弁護士・税理士・行政書士や管轄の保健所に確認することをおすすめします。
旅館の営業許可は売買で引き継げるのか
旅館業の営業許可の承継とは、売り手(譲渡人)が持つ旅館業法上の営業許可の地位を、買い手(譲受人)が引き継ぐことをいい、取引が「株式譲渡」か「事業譲渡」かによって扱いが異なります。
まず押さえたいのは、どちらの方式でも「廃業して新規に取り直す」ことが必須ではなくなっている点です。株式譲渡では許可を持つ法人格が変わらないため許可はそのまま有効に存続し、事業譲渡でも2023年12月の改正以降、事前に都道府県知事等の承認を受けることで営業者の地位を承継できるようになりました。
もともと旅館業の許可は「施設ごと・営業者ごと」に与えられる性質があり、改正前は営業主体が変わる事業譲渡では許可が消滅し、譲受人が新規許可を取り直す必要があるとされていました。改正後は、合併・分割・相続と同様に、事業譲渡でも承認による地位承継の制度が整備されています(旅館業法第3条の2)。なお、施設の同一性が大きく失われる変更や、一体運営の旅館のうち一方の棟のみを切り出す譲渡などは、承継制度の対象外となり新規許可と同様の取り扱いになる場合があるため、管轄の保健所に確認が必要です。
事業譲渡で引き継ぐ場合 ― 2023年12月改正で何が変わったか
事業譲渡とは、会社の株式ではなく、旅館事業そのもの(施設・許可・契約など)を選んで買い手に移す取引で、営業主体(営業者)が売り手から買い手へ変わる点が株式譲渡との大きな違いです。
改正前は事業譲渡では許可が消滅し、買い手の新規許可取得が必要でした。これが、2023年(令和5年)12月13日施行の改正旅館業法により、事前に都道府県知事等の承認を受けることで、新規許可を取り直さずに営業者の地位を承継できるようになりました。
背景にあるのは、「生活衛生関係営業等の事業活動の継続に資する環境の整備を図るための旅館業法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第52号)の施行です。これにより新設された旅館業法第3条の2は、旅館業を譲渡する場合に、譲渡人および譲受人がその譲渡・譲受けについて都道府県知事等の承認を受けたときは、譲受人が営業者の地位を承継すると定めています。承認にあたっては、譲受人が欠格事由に該当しないことの確認が要件とされています。
改正前後の違いを整理すると次のとおりです。
- 改正前(2023年12月12日まで):譲渡人が廃業届を提出し、譲受人が新規許可を申請。審査・手数料・施設検査を新規にやり直すため、許可取得までに数か月の営業空白が生じるリスクがありました
- 改正後(2023年12月13日以降):効力発生日より前に「承継承認申請」を行い、承認を受けることで営業者の地位を承継。廃業届・新規許可申請は不要となります
実務上の注意点として、承認が得られる前に事業譲渡の効力が発生してしまうと承継制度の適用を受けられず、新規許可申請が必要になる場合があります。承認書の交付を受けてから効力が発生するよう、契約上の効力発生日を設定する設計が、実務上の備えになります。
事業譲渡の承継承認申請 ― 申請の流れと必要書類
承継承認申請とは、事業譲渡で営業者の地位を引き継ぐために、譲渡の効力が発生する前に、施設の所在地を管轄する都道府県知事等(保健所設置市の市長・特別区の区長を含む)へ承認を求める手続きです。
全体の流れは「事前相談 → 承継承認申請(効力発生日より前)→ 承認書の交付 → 承継後の保健所調査」という順になります。標準的な処理期間は21日程度とされる例がありますが、自治体により定めが異なり、土日祝を除く営業日で数える場合もあります。様式・手数料・添付書類とあわせて、事前に管轄の保健所で確認してください。
手続きの流れは一般的に次のとおりです。
- 事前相談(譲渡予定日の2〜3か月前が目安):管轄の保健所にあらかじめ相談し、衛生管理や事業方針を説明する
- 承継承認申請(効力発生日より前):譲渡人・譲受人の連名で、管轄の都道府県知事等へ申請する
- 承認書の交付:欠格事由確認のため関係機関への意見照会が行われる場合がある。承認書の交付後に事業譲渡を実行し地位が移転する
- 承継後の保健所調査:承継日から一定期間内に、事業継続・施設設備基準・衛生管理について調査が行われる
申請の際に求められる主な書類には、旅館業営業承継承認申請書(譲渡人・譲受人の連名)、譲渡する旨を証する書類(譲渡契約書等の写し・効力発生日が確認できるもの)、旅館業許可証の原本、譲受人が欠格事由に該当しないことを示す書類(法人の場合は役員全員分)、定款または寄付行為の写し・登記事項証明書、消防法令適合通知書などがあります。必要書類や様式は自治体ごとに異なる場合があるため、申請前に管轄の保健所で確認してください。
承継後の手続き ― 6か月以内の調査と衛生管理責任の移転
承継後の保健所調査とは、事業譲渡による承継が行われた後に、引き継いだ施設が旅館業法の基準を満たして運営されているかを都道府県等が確認するための立入調査をいいます。
改正法の附則により、当分の間、承継が行われた日から6か月以内に少なくとも1回、事業の継続状況・施設設備基準・衛生管理の状況についての調査が行われるとされています(出典:令和5年法律第52号 附則第3条第2項/厚生労働省 改正旅館業法ポータル)。承継後は衛生管理の責任が譲受人に移るため、譲渡前から保健所に相談し、引き継ぎ後の運営体制を整えておくことが重要です。
事業譲渡の承継では、新規許可時のような事前の施設検査が省略される代わりに、承継後の調査で施設・衛生の状況を確認する設計になっていると整理できます。あわせて、譲受人は、譲渡人が許可取得時に提出した施設の図面等の控えを引き継ぎ、適切に管理しておくことが望ましいとされています。調査の時期や運用の詳細は自治体により異なる場合があるため、承継のスケジュールは管轄の保健所に確認しながら設計することをおすすめします。
事業譲渡と株式譲渡、許可の扱いはどう違うか ― 選び方の視点
事業譲渡と株式譲渡の選択とは、旅館を「事業ごと選んで移す」か「会社ごと移す」かの取引設計の選択で、許可の承継手続き・手数料・タイミングに違いが生じます。
許可の観点だけを比べると、法人格が継続して許可がそのまま有効に残る株式譲渡のほうが手続きはシンプルです。一方で、実務では許可の継続性だけで方式が決まるわけではなく、簿外債務・係争リスクの引受の有無、雇用や契約の引き継ぎ、税務上の取り扱いといった要因が優先されることが多くあります。
許可の扱いに絞って違いを整理すると、次のように考えられます。
- 許可の扱い:事業譲渡は都道府県知事等の承認を経て地位を承継/株式譲渡は法人格の継続により許可はそのまま有効
- 主な手続き:事業譲渡は効力発生日より前の承継承認申請(廃業届・新規許可申請は不要)/株式譲渡は代表者・役員変更時の登記事項変更の届出など
- 申請者:事業譲渡は譲渡人・譲受人の連名/株式譲渡は新しい代表者名義
- 承継後の調査:事業譲渡は承継日から6か月以内に保健所調査/株式譲渡は原則なし
- 手数料の目安:承継承認申請の手数料は自治体により異なり、多くの自治体で7千円前後(名古屋市など2万円超の例もあります)/株式譲渡は登記費用など(保健所の手数料は原則不要)
どちらが向くかは、許可以外の事情で決まることが多いといえます。一般的な傾向としては、簿外債務や偶発債務を会社ごと抱えたくない・引き継ぐ資産や契約を選びたい場合は事業譲渡が、雇用・許可・取引先との契約をまるごとそのまま引き継ぎたい場合は株式譲渡が、それぞれ向きやすいと整理できます。具体的な税務の取り扱いは税理士の領域、契約・債務の引受は弁護士の領域にあたるため、許可・雇用・税務・債務の各観点を総合し、専門家と連携して設計するのが安全です。
まとめ ― 営業許可の承継は「方式の選択」と「事前の承認設計」が要
旅館の営業許可は、株式譲渡なら法人格の継続によりそのまま有効に存続し、事業譲渡なら2023年12月の改正で整備された事前の承認申請によって、新規取得なしに営業者の地位を承継できるようになりました。事業譲渡では、効力発生日より前に承認を受けること、承継後6か月以内の保健所調査に備えることが実務上の要点になります。
方式の選択は許可の継続性だけでなく、雇用・契約・税務・簿外債務まで含めて決まります。承認申請の様式や手数料、調査の運用は自治体により異なる場合があるため、譲渡予定日の2〜3か月前を目安に、早めに管轄の保健所と専門家へ相談しながらスケジュールを設計することをおすすめします。
REYADOは、売り手の側に立つ宅地建物取引士として、方式の選択や承認申請のスケジュール設計、買い手探し、従業員や取引先に知られないための秘密保持まで、提携する弁護士・税理士・行政書士と連携して伴走します。許可の取り扱いは取引条件そのものに直結するため、売買の方針を固める初期の段階で確認しておくと、後戻りのない設計がしやすくなります。
本記事の監修:宮﨑洋平(宅地建物取引士/株式会社REYADO 代表/神奈川県知事(1)第33154号)
主な出典
- 厚生労働省「令和5年改正旅館業法ポータル:事業譲渡に係る手続の整備」
- 旅館業法 第3条の2(e-Gov法令検索)
- 旅館業法等の一部を改正する法律(令和5年法律第52号)・附則第3条第2項
- 各都道府県・保健所設置市の旅館業承継承認申請の手引き
よくある質問
事業譲渡でも旅館の営業許可を引き継げますか?+
引き継げる場合があります。2023年(令和5年)12月13日施行の改正旅館業法により、事業譲渡でも、効力発生日より前に都道府県知事等へ承継承認申請を行い承認を受ければ、新規許可を取り直さずに営業者の地位を承継できるようになりました。承認前に効力が発生すると新規許可申請が必要になる場合があるため、効力発生日の設定に注意し、管轄の保健所に確認してください。
株式譲渡と事業譲渡で、営業許可の扱いはどう違いますか?+
株式譲渡は許可を持つ会社(法人格)がそのまま続くため、許可は名義を変えずに有効に存続し、許可証の取り直しも原則不要です。事業譲渡は営業主体が変わるため、改正後は事前の承認申請による地位承継の手続きが必要になります。許可の手続きだけを見れば株式譲渡のほうがシンプルですが、雇用・契約・税務・債務など他の要因も方式選択に影響します。
事業譲渡で承継した後に必要な手続きはありますか?+
承継後は、改正法の附則にもとづき、当分の間、承継日から6か月以内に少なくとも1回、事業継続・施設設備基準・衛生管理について保健所の調査が行われるとされています。あわせて衛生管理の責任が譲受人に移り、許可取得時の図面等の控えを引き継いで管理することが望ましいとされます。調査の時期や運用は自治体により異なる場合があるため、管轄の保健所に確認してください。